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2013年12月

2013.12.16

へたれオカルティストのとある1日

シゴト場が年末進行ということで、夕方に出勤して帰宅が翌朝、という状況がここしばらく続いている。そして、その日は定期的に通院しているクリニックの日だった。

帰り道。赤信号を目で確認しているのにも関わらず、ブレーキを意識するまでややタイムラグがあった。眠かった。だが、アジトでちょっと仮眠、のつもりが爆睡してしまって、気が付いたらクリニックの予約時間をぶっちぎって、後日予約を取り直し、なんてことも十二分に考えられる。というか、ほぼ確実にそうなってしまう。なので、クリニックへは地下鉄を使い、地下鉄でも座るとそのまま意識が落ちてしまいそうなので、立っていた。

まぁ、それでも眠いっちゃ眠い。縦の手すりに背中を預け、電車の不規則な縦G横Gに抗うも、ついつい瞼の上下がくっ付いてしまう。何回かそういうことがあったのだが、その次に同様なことがあったときに、低下の一途をたどっていった意識レベルが、一気に覚醒レベルにまで引き上げられることになる。

目を閉じて何も見えず・・・、な筈だったのだが、目を閉じても車内の様子が見て取れた。



その状況が理解できなかった。シゴト場での薬品にかぶれたのか手首が荒れていたので、その部分を思いっきり掻きむしってみた。ちょっとの快感と、やや痛みを感じた。夢ではないようだ。目を開く。地下鉄の車内の光景が見える。目を閉じる。・・・なんで地下鉄の車内の光景が瞼の裏に映し出されているんだ? ついに私は壊れてしまったのか?

とある精神病院は入ったら退院できない、なんて小話を思い出した。ドクターが正常だと認めれば退院もできるのだが、症状が重ければ重い人ほど「私は正常だ」と言い張るらしい。じゃ、逆に「私はおかしいです」と言うと、そのまま入院が続く、という・・・。その点で私はどうなのか? 怪しいもんだ。

そんな小話を思いながら、目を開いて見える光景と目を閉じても見える光景の違いを探してみた。視点の場所が違うようだ。立っている私の視点と比べると、明らかにその視点は椅子に腰かけている。そして、その視点は大人レベルの高さではないようだ。

やっぱりこれはどういうことなのか。考えれば考えるほど混乱する。と、「視覚の変調」だけなら良かった ―いや、良くない― のだが、聴覚にも変調が現れた。いや、これも耳が音を拾っているのではない。頭に直接届いてきた感じだ。


ままー、この電車の中に仲間がいるよ。
いる訳ないでしょ。
ホントだよー。いるってばー。
いる訳ないでしょ。私たちが人に知られたらいけないの、分かっているでしょ。
いるってばー。じゃ探してみる。
やめなさいって。んもう。

大体のことは察しがついた。超能力だ。テレパスだ。でも、他人に画像を送り込むなんて能力は知らない。そうこうしている間に「サーチライトの輪」が私を映していった。その瞬間、心臓が大きく動いた。一度は通り過ぎた「サーチライトの輪」がまた戻ってきた。その刹那、また どくん と大きく脈打った。

ままー、見つけたよ。ほら、あそこの背の高い、メガネをかけた黒い人。
よしなさいって。でも、どれ。あー。
ほら、言ったとおりでしょ。
あの人も何か感じているみたい。でも、発信できるほどの力はないようね。

うわぁ、知られちゃったよ。「会話」からしてあの親子、なんだろうな。考えていたあんなことやこんなこともすべてお見通しか? 嫌だなぁ。え? あ・・・・・・。

私たちのこと、分かりますか? 返事は、思うだけで良いですよ。

流れ込んでくるその「思念」に反応した後に、私の疑問をぶつけてみた。これは一体どういうことだ? あなたたちは一体? テレパス? 私が思ったそれらの疑問を、全て一気に、あっという間に理解「させられた」。磁石に近付いた鉄が磁石みたくなるように、疲れていた私の精神状態が偶然にも反応してしまったんだと。

子供が「語りかけてくる」。


おにいちゃんはあたしたちのことを知ってもあまり怖がらないね。どうしてなの? 今日のように「お話し」できる? また会える?

一応、予備知識があったこと。怖いことは怖いけど、知ってしまった以上仕方ないじゃん。「お話し」はどうかな? 会ったとしても、今日のように思うだけでお話しできるかどうかは分からないな。

やがて電車は減速し、降りる駅に着いた。私は「じゃあね」と思いながら電車を降りた。子供は「ばいばーい」、母親は「どうもありがとうございました」と思念を送りながら、その親子を乗せた電車は走り過ぎていった。

なんか、思いっきり疲れた。クリニックの待合室で思いっきり爆睡し、数度名前を呼ばれてやっと気が付いたくらいだし。でも、このことはドクターにはとても話せない。

診察が終わり、薬局で薬を貰い、地下鉄駅に向かうために横断歩道を歩いていたら、前から顔色の悪い男が歩いてきた。私は首を軽く左に傾け、男と右側ですれ違うようにしたら、その男が「あんた、俺が見えるのか」とぼそっと言ってきた。最初は意味が分からなかったが、その意味が分かって振り向いたときには、その男の姿はなかった。

たった数時間の間に体験したこれらのことは、やっぱり常識的には説明のしようがない。ただ、あるがままをあった通りに書いただけ。そして、これらのことを信用する、しないは、読んだ人に任せる。ただ私は今、疲れている・・・。


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